
帯状疱疹
帯状疱疹は皮膚と痛みの病気です
帯状疱疹とは
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水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)というウイルスによって引き起こされる病気です
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VZVは多くの人が子供の頃に経験する水ぼうそうの原因ウイルスです
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水ぼうそうが治った後、ウイルスは消滅することなく体内の神経節という場所で冬眠状態になります(潜伏感染)
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その後、持病の悪化や疲労やストレスなどで免疫力が低下した際に、眠っていたウイルスが突然目覚め、神経に沿って炎症を起こし、皮膚に発疹を出現させ、帯状疱疹として姿を現します(ウイルスの再活性化)
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帯状疱疹がおさまった後は、再び冬眠状態に入ります(潜伏感染) ※消滅はしません

発症年齢や男女比
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発症率は50歳前後から上昇していきます
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高齢者に多い印象があると思いますが、どの年齢でも発症する可能性があります
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80歳までに約3人に1人がなると言われており、身近な病気と言えるでしょう

帯状疱疹の診断方法
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特徴的な発疹と痛み症状から診断されることが多いです
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皮膚表面や水疱から特殊な検査キットを用いてウイルスを検出することで診断をより確実なものにできます(5分程度で結果がわかります)
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帯状疱疹と似たような皮膚疾患もありますので注意が必要です
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以上のことから、皮膚科医による診断がお勧めです
帯状疱疹の症状
皮膚症状
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帯状疱疹は全身どこにでも出現する可能性があります
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通常は片側にのみ発症し、ピリピリとした痛みが先行してその後数日経って発疹が出現します(発疹が先にでることもあります)
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発疹は、丘疹(ポツポツ)、紅斑(赤み)から赤みを伴った水疱(水ぶくれ)まで様々で、水疱が破れるとジクジクした状態となります
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発疹が帯状(おびじょう)に配列することが特徴なので帯状疱疹と呼ばれています
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発疹は時間と共に、乾燥してかさぶたとなり、1〜2週間で最終的にピンク色に痕を残したり(瘢痕)、茶色い痕 (色素沈着)を残して治癒します
例外的なもの
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片側に出現することが多いですが、両側に出現したという報告もあります
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発疹が出現しないこともあります(このパターンは診断が難しいです)
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発疹が部分的にではなく、全身に出てくると、汎発性(播種性)帯状疱疹と言われ感染力が強く注意が必要です
写真で見る発疹の経過

01
紅斑、水疱

02
痂皮(かさぶた)

03
色素沈着、瘢痕
帯状疱疹の痛み
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痛みはピリピリ、ビリビリ、ザワザワ、ズキズキ、ズシーンと表現されるようなものまで多岐にわたります
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常に痛むと言うよりは、間をおいて(間欠的)痛みを感じることが特徴的です
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痛みではなく、痒みとして出てくることも少なくありません
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痛みがひどい時は、夜間の睡眠障害など生活に支障のでることもあります
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痛みの性状は時間と共に変化していきます
帯状疱疹の痛みの種類
3つの痛みの要素が関与する複雑な痛み
侵害受容体性疼痛
組織が損傷を受けることによる痛み、急性期の大部分を占める強い痛み
神経障害性疼痛
神経損傷などが関与する痛み、不快な痛み
心因性疼痛
精神的、社会的、行動的因子が関与する痛み(恐怖や不安が引き起こす痛み)


当院の帯状疱疹治療
ウイルスに対する治療
内服、点滴治療
皮膚のケア
外用療法
痛みのケア
内服、点滴、神経ブロック治療
帯状疱疹の治療
3つのポイントに対する対策
ウイルスの増殖を抑える
抗ウイルス薬の内服・点滴治療
皮膚の状態の悪化を抑える
外用剤を用いた治療
痛みを抑える
内服薬・点滴治療、神経ブロック治療、患部を温める(入浴)冷やしてはダメ
帯状疱疹による後遺症・合併症
帯状疱疹後神経痛(PHN)
抗ウイルス薬の内服・点滴治療
痛み以外の後遺症・合併症
運動障害・・・手や足が痺れて動かしづらい、勝手に動いてしまう、関節が固まってしまう(拘縮)
異常感覚・・・感覚が鈍くなる(感覚低下)
重篤な後遺症・合併症
Ramsay Hunt症候群(顔面帯状疱疹)・・・顔面神経麻痺+難聴+めまい+耳鳴り+外耳炎
膀胱直腸障害・・・排便、排尿機能が障害される(腰・臀部の帯状疱疹)
ヘルペス脳炎(ウイルスが髄液に侵入した場合)
帯状疱疹後神経痛について
帯状疱疹で最も多い合併症
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帯状疱疹が治まった後も痛みが続く状態のこと(数週間から、長い方では数年にわたる)
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発症平均年齢は60歳
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50歳以上では約20%でPHNになるといわれています(5人に1人)
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不快な感覚(アロディニア)やふいに襲ってくる強い痛みまで様々
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アロディニアとは少しの刺激(服がこすれたり、風にあたるなど)痛みが誘発されてしまう症状(ザワザワ、ヒリヒリ)
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痛みやしびれ、違和感が完全に消えないことも少なくない
PHN発症予防のために出来ること
発症前
基礎疾患の治療
ワクチン接種
発症後
早期からの抗ウイルス薬治療
積極的な痛み治療
帯状疱疹ワクチンの種類
水痘ワクチン(弱毒性生ワクチン)
生きた水痘ウイルスが含まれるワクチン
シングリックス(サブユニットワクチン)
ウイルス表面タンパクの一部を抗原とした組換えワクチンで、生ワクチンではありません(2回接種、2〜6ヶ月間隔で)
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50歳以上での接種が奨励(保険適応外)
ワクチンの有効性
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60歳以上でPHN発症を1/3まで減少できたとする報告がある
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ワクチン接種により少なくとも5年は帯状疱疹を発症するリスクを減らせる
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仮にHZを発症しても軽症になる可能性が高い
ワクチンの副作用
接種後7日間に起こった主な副反応として、注射部位の痛み78% 赤み38% 腫れ26%とのことでした。 注射部位以外では、筋肉痛40%、疲労39%、頭痛33%、悪寒24%、発熱18%、胃腸症状13%の報告があります。
水痘ワクチン(ビケン)は生ワクチンですので、血液疾患、3カ月以内での化学療法、T細胞性免疫不全、免疫抑制剤(PSL20mg以上2週間以上投与、抗TNFα) 等には投与は控えた方がいいでしょう。
神経ブロックとは
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神経ブロックとは「目的とする神経周囲に薬液を注入する」処置のことをいいます
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麻酔薬が神経に作用し、痛みの伝わる経路をブロックすることで、痛みを取り除くことを目的とした治療です
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痛みを取り除くだけでなく、組織の血流を改善し、筋肉のこわばりも和らげてくれます
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点滴、内服の場合、薬が障害部位に限らず全身に及ぶことが多いのに対し、神経ブロックでは障害部位の目的とする神経のみに作用させることができます

帯状疱疹の痛みと神経ブロック
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出来るだけ早期から行うべきである
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時間が経てば経つほど効果が望みにくい状態となる
神経ブロック治療を受けることによるメリット
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痛みを和らげることで痛みの悪循環を絶ちます
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神経支配領域の血流が増加し、皮膚や神経の損傷部の修復促進の手助けとなります
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痛みが緩和されることにより、内服薬を少なくできます
神経ブロック治療を受けることでのデメリット
合併症
血圧低下、出血、感染、神経障害、気胸まで様々ですが、神経ブロックの種類によって変わりますので詳細は主治医から説明させていただきます
神経ブロックを控えたほうがいい方
神経ブロック治療は優れた治療法の一つではありますが、以下のような方にはお勧めしないこともあります。
メリット・デメリットをトータルに考え、主治医と相談していきましょう
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鎮痛薬が十分に効いている場合
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血をサラサラにするお薬を服用中の方
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糖尿病のコントロールが不良な方(HbA1c 8.0以上)
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体調が優れない方
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超高齢の方
神経ブロック治療の流れ
帯状疱疹の痛みは長期にわたるため小さなゴール設定し一つ一つクリアすることが大切です
目標 1. 夜眠れること
目標 2. 日常生活に支障をきたさないこと
目標 3. 趣味を楽しめること
目標 4. 痛みを楽観的に捉えられること(気にならない程度になること)
痛みで生活の質が下がらないような治療を目指します
診察治療の流れ
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診察室で、問診、診察
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HZが確定したら、採血
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抗ウイルス薬の投与(内服もしくは点滴)
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痛み対策(内服薬処方、点滴や神経ブロック治療)
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症状の軽い方は、5〜10分程度で診察終了です。
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症状が重い方は通常約1時間でご帰宅できます。
院長からのメッセージ
帯状疱疹は早期診断、早期治療が重要です。
かかりつけの病院での治療後も帯状疱疹の痛みに悩まされている方は是非ご相談ください。
よくある質問
Q. 他の人にうつりますか?
A. 基本的にはうつりませんが、水ぼうそうにかかったことのない子供や、高齢者にはうつる可能性があります。汎発性帯状疱疹は水ぼうそう同様に空気感染しますので、特に注意が必要です。
Q. 神経ブロック治療はどの時期でも誰でも受けられますか?
A. いつでも誰でも受けられるものではありません。以下の患者さんでは神経ブロック治療を見合わせることも必要です。
1. 鎮痛薬で十分に痛みに効いている場合
2. 血をサラサラにするお薬を服用中の方
3. 糖尿病のコントロールが不良な方
4. 体調が優れない方
Q. 帯状疱疹の症状は左右どちらからでますか?
A. どちらからもでます。常に片側で、帯状の皮疹とは限りません。また、帯状疱疹と紛らわしい皮膚疾患もありますので皮膚科専門医の診察を受けることをお勧めします。
Q. 帯状疱疹の痛みはいつまで続きますか?
A. 多くは数日〜2週間程度でなくなります。ただ、リスクの高い方などは数週間〜数ヶ月、中には数年にわたり痛みを抱えている方もいらっしゃいますので油断はできません。
Q. 帯状疱疹になったら人と触れ合わない方がいいですか?
A. 帯状疱疹は接触感染ですので、皮疹を触ることで感染する可能性がありますので注意しましょう。
Q. 帯状疱疹は完治しますか?
A. 体の中から帯状疱疹ウイルスを排除することはほぼ不可能だと思います。帯状疱疹にならないよう、またなったとしても後遺症を最小限にするためにも、規則正しい生活や早めの受診、ワクチン接種が望まれます。
Q. 痛いところは冷やした方がいいですか?
A. いいえ。冷やすと逆に痛みが増強する場合がありますのでやめましょう。むしろ温めてください。入浴時間を十分にとることで痛みが一時的ですが和らぎます。